cinéma et nous~映画批評~

個別の作品の映画批評を中心に記事を書いています。各作品の批評と分析は、その映像の表層にできる限り潜行し、物語と映像が交差するポイントからその映像そのものが突きつける潜勢力としての内的な体系、いわば「その可能性の中心」を見ることを試みています。取り上げた映画のご鑑賞のお友に是非ご一読ください。

2018年シネマベスト10

2018年に公開された映画から選出したベスト10です。

2018年を振り返ってまず取り上げたいのは、それまでインディペンド系の力作~特に5時間を超える大作『ハッピーアワー』の衝撃!~を連発してきた濵口竜介の初の商業映画『寝ても覚めても』だ。映画批評家蓮實重彦をして「向かいあうこともなく二人の男女が並び立つラスト・ショットの途方もない美しさ。しかも、ここには、二十一世紀の世界映画史でもっとも美しいロングショットさえ含まれている。濱口監督の新作とともに、日本映画はその第三の黄金期へと孤独に、だが確実に足を踏み入れる。」と言わしめた、とてつもない傑作だ。このラストショットやロングショットもさることながら、対立し離反していた二人の男女が猫を媒介として再び引き合う玄関口のショットも忘れられない。『レディ・プレイヤー1』は様々なメジャーキャラクターや映画へのレファレンスがあり、それだけでも楽しめるのだが、この映画を貫くファイティング・スピリッツを見事にアクションへと昇華させる、スピルバーグの手腕に改めて敬服した。『きみの鳥はうたえる』も、濵口と並ぶ期待の映画作家三宅唱の初の商業映画だ。前述の蓮實重彦が「上映時間があと七分半短ければ、真の傑作となっただろう。」とコメントしているが、いやいや真の傑作だ(笑)。ラストシーン、柄本佑が最後の数を数えて走り出し、それを受け止めて振り返る石橋静河のクローズアップの素晴らしさを言葉で表現することはもはや不可能だ。

『犬ケ島』はその技術的な凄さとともに、マルティチュードとなって戦う少年と犬たちの勇気に心底痺れさせられた。『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は20世紀の歴史の検証を行ってきたスピルバーグの一連の作品群に連なり、昨今の文書をめぐる愚劣な政府の対応を想起しながら本当に楽しめる作品だ。『希望のかなた』はこれもまた移民という重いテーマを扱いながら、アキ・カウリスマキの相変わらずのとぼけたクールな笑いを楽しむことができ、最後には希望をも残してくれるロックな映画に仕上がっている。『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』は大好きな映画作家ジェームズ・グレイのそれまでのフッテージとは趣を異にする大作であり、丁寧に描いた未知の世界を堪能できるはずだ。『15時17分、パリ行き』も86歳となったイーストウッドが、映画のベースとなった実話の実際の人物たちが本人を演じるという、ドキュメンタリーとフィクションの枠をかつてない形で超えようとする野心作だ。アクターたちの実人生がこの映画そのものに重ねて生きられることになる。『マイ・プレシャス・リスト』、『ウインド・リバー』はこれからの活躍が期待ができる映画作家たちのデビュー作だ。

 

1.寝ても覚めても濱口竜介/2018)

www.youtube.com22.レディ・プレイヤー1(READY PLAYER ONE スティーヴン・スピルバーグ/2018)

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3.きみの鳥はうたえる三宅唱 /2018)

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 4.犬ヶ島(ISLE OF DOGS ウェス・アンダーソン/2018)

www.youtube.com55555.ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(THE POST スティーヴン・スピルバーグ/2017)

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6.希望のかなた(TOIVON TUOLLA PUOLEN アキ・カウリスマキ /2017)

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7.ロスト・シティZ 失われた黄金都市(THE LOST CITY OF Z ジェームズ・グレイ /2018)

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8.15時17分、パリ行き(THE 15:17 TO PARIS クリント・イーストウッド /2016)

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9.マイ・プレシャス・リスト (CARRIE PILBY スーザン・ジョンソン /2016)

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10.ウインド・リバー(WIND RIVER テイラー・シェリダン /2017)

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